歯が原因ではない歯の痛み
みなさまが歯科医院を受診するときには「歯や歯ぐき、舌、顎が痛む、何か変」ということで受診なさることがほとんどだと思います。
多くの場合、患者さんが痛みを感じるところにむし歯や、その他の炎症があるのですが、痛みを感じているところとは別に原因があるかもしれないと考えながら診断をしています。
これは患者さんが嘘をついているということを疑ってみているということではもちろんありません。
原因が他にあっても痛む「場所」が歯、歯ぐき、舌、顎などということがあるのです。
詳しくはまた別の機会でお伝えできると思いますが、
・筋 筋膜痛によるもの
噛むときに使う筋肉に炎症があり、これが歯の痛みとして出ていることがあります。かみしめ、食いしばりなどが関連していることがあります。
・神経障害性疼痛によるもの
神経が受けた傷などの原因により、むし歯その他の影響によらず痛みを感じることがあります。親知らずを抜いたときの影響により出ることもありますし、また帯状疱疹に伴う痛みとして出ることもあります。
・神経血管性頭痛によるもの
主に「TACs」と呼ばれる頭痛の影響により歯に痛みを感じることがあります。
頭痛による強い痛みを歯に感じることがあります。
・上顎洞疾患によるもの
鼻の横あたりにある「上顎洞」という頭蓋骨の中にある空洞に起こる炎症など(ちくのう症などが起こる場所です)により痛みを感じることがあります。
・心臓疾患によるもの
狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患の影響により歯に痛みを感じることがあります。
・精神疾患または心理社会要因によるもの
精神的な疾患の影響として歯に痛みを感じることがあります
・特発性歯痛
歯の痛みに見合う異常が見つからない痛みもあります
このような痛みの原因があります。
特に上に挙げたTACsについては歯科医師に対して啓発活動が行われています。
TACsは「この歯をすぐ抜いてくれ」と表現する患者さんがいるほど強い痛みで、歯の痛みが原因と思い歯科に駆け込んでくる患者さんがいらっしゃいます。歯科医師も患者さんの強い痛みの訴えに、歯の処置を行うケースもあるようです(頭痛が原因なので歯の治療をしても当然治りません)。
「痛みを感じている場所に歯があるからとりあえず神経を取って様子をみる」という処置について、私は非常に慎重な立場です(まずやりません)。
規模の大きいかみ合わせの調整や神経の処置などは特に後戻りのできない処置ですので、この歯が原因という証拠が十分に集まってから処置を行います。痛みを感じている患者さんを目の前にして、すぐに根本的治療が行えないのは大変心苦しいのですが、上に挙げた痛みが疑われる場合は、口腔領域の幅広い痛み(口腔顔面痛と表現します)を総合的に診断する専門医がいる高次医療機関を紹介させていただくこともあります。
歯科医師は適切に歯を治療することはもちろん大事だと思いますが、適切に歯を治療「しない」(歯以外に原因があると思われる場合には安易に歯に手をつけない)ことは、それ以上に大事なことだと思います。