定期検診のすぐ後に詰め物が外れた、その理由
「定期検診のすぐ後に詰め物が外れる」という経験をなさった方はいらっしゃいますでしょうか?恥ずかしながら、私には、定期検診でOKだった患者さんが1ヶ月後に詰め物が取れたと来院なさったことが何度かあります。
患者さんにしてみれば、「1ヶ月前に歯科医院に行ったのに」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、私もいい加減に診ているわけではありません。今回はそのお話をさせていただきます。
当院での定期検診では、主に以下の項目を診ます。
・歯周病についての診査
・むし歯(詰め物・かぶせもの)についての診査
・かみ合わせ(歯並び・すり減り)についての診査
・顎関節や顎の機能についての診査
・舌や頬など粘膜についての診査
このうち、むし歯(詰め物・かぶせもの)についての診査では、まず直接目で見ての診査と、ライトで透かしながらの診査、レントゲンでの診査、そして詰め物が外れていないか、わざと外れる力をかける診査などを行います。
外傷などを除き、詰めものやかぶせものが外れるパターンとして考えられるのは、
・詰めものやかぶせものの下からむし歯になり、維持ができなくなって外れた
・セメントが劣化して外れた
の2点です。
むし歯ができたのであれば、レントゲン診査や歯と詰めものの境目の引っかかりなどでわかることが多いです。患者さん自身も「ものが詰まるようになった」とか「甘いものがしみる」など何らかの症状が出ていることもあります(わかりにくいのですが無症状のこともあります)。
厄介なのは、2のセメントが劣化して外れるパターンです。歯質、セメント、詰めものやかぶせもので比べると、一番弱いのはセメントです。硬さや曲げなどにおいて、2つの異なる性質のものを繋ぎ止めているのも大きな理由の一つです。これは無症状で経過することも多く、レントゲンなどにも映らないこともあります。当院では、探針で引っ掛けてわざと外れるような力をかけて診査をします(探針の力で外れるような詰めものやかぶせものは既に外れていて、そこにはまっているだけなので、取れた方が良いです)。しかし、一部のセメントが劣化しているだけだと外れてこないのが普通です。総じて実際に取れるまで問題が表面に出てきにくいのです。ただ、その場で外れて、詰めものやかぶせものの下がむし歯になっていなければ、再装着や再治療はむし歯があった時に比べ容易と言えるでしょう。
セメントは、当然ながら口の中にあるわけですから、外の環境とは違って、熱いお湯から冷たい氷までの熱変化を受けますし、レモンや黒酢ドリンクをはじめ、他の様々な飲料などの強い酸性から中性までの影響も受けます。また食事の時の何十キロという噛む力や、噛み締めや食いしばりなど、もっと大きい力を受けたり、弱くても断続的な力を受けたりとなかなか過酷な環境です。
このような環境の中で接着力を発揮させ、さらにフッ素などを出す機能をもったセメントの開発など(他にもたくさんあります)、メーカーさんの努力は素晴らしく、性能も目覚ましく向上しています。しかし、そこを超える噛み締めの力や経年劣化があるのも事実です。
セメント開発に日夜苦心しているメーカーさんの名誉のために申し上げますと、セメントの性能だけのせいにしてはいけません。患者さんの噛み締めなどの個性の差が出ているのもそうですが、詰めものやかぶせものを作る時の歯科医師の設計も非常に大きな要因になります(どの角度で歯を削るかなどです)。極端にいうと、富士山のようなかたちの歯にかぶせものをするのと、茶筒のようなかたちの歯にかぶせものをするのとでは、どちらが取れやすいか、何となく想像はつくのではないでしょうか。あとは、かぶせものの高さがどの程度取れるのかも考慮に入れなくてはなりません。
色々とお話ししましたが、ポイントは
・むし歯にはなっていないけれど、セメントが劣化して詰めものやかぶせものが取れることがあり、それらは事前には非常にわかりにくいこと
・口腔内の環境は過酷であり、セメント劣化を防ぐ手立てはないが、詰めものやかぶせもの設計、かみしめや食いしばりのコントロールにより、緩和することは可能である
この2点です。皆様の参考になれば幸いです。