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国立科学博物館「和食」展を観る

[2023.11.22]

 国立科学博物館の「和食」展に行ってきました。前回の「海」展へ行った時に、予告のポスターを目にして、(食欲旺盛という意味で)食に興味があるものとしては絶対に行かねばと、半ば使命感めいたものを感じていました。食事をする器官である口腔を扱う歯科の人間としても、食の話題は避けては通れない話題です。砂糖を槍玉に挙げるだけでは不十分と日々感じています。それと同時に、食は生きることと直結しているだけに、個人的な思い入れが大変強い部分なので容易に言及してはならないというふうにも考えています。砂糖を問題とするならば、その人の食生活全体の話をしなくてはならないはずなのですが「好きで食べているものを他人にとやかく言われたくない」と感じる人がほとんどだろうと私自身は考えているため、ここは簡単に砂糖の話だけをしてお茶を濁そうかと、食生活のアドバイスについて己の力足らずな部分を感じつつ日々の診療生活をおくっていたりもします。

 上野駅に向かう電車の中で「和食」とは何だろうかと考えていました。ぱっと思い浮かぶのは昭和のお家メニューという感じでしょうか。ご飯、味噌汁、焼き魚、季節の野菜を使った料理です。プロの料理人が作る芸術品のような料理もそうだな。コロッケとエビフライの定食も定着していると言っていいような気がする。そんなことを考えていました。実際、和食の境界線をはっきり引くことはできないということが展覧会のイントロダクションにあり、各々が考えるきっかけとして欲しいというような言葉がありました。

 展示では確か料理に使う水から話が始まりました。言われてみれば口に入るものの構成要素でメジャーなものは水分ですから、言われてみれそうだよなと思いました。日々の食事を楽しみに、こうやって特に需要もない博物館の感想を綴っている私も半分以上は水からできていることでしょう。明治政府の御雇外国人に「これは川ではなく滝だ」と言わしめた日本の川(常願寺川なのか早月川なのかは論争があるそうです)は、土壌が急なため水が留まる時間が大陸に比べて短い(おそらく地下水に関してもそうなのでしょう)。すると土壌のミネラル成分が水に溶ける時間が短いので、日本の水は軟水になりやすい。軟水だといわゆる出汁の成分が短時間で溶け出しやすく、料理法として発達したというものでした。これは具材を長時間煮たり焼いたりせず、素材そのものを活かす料理法とも合うとありました。なるほど納得な内容です。これだけでも来た価値があったと思いました。

 また、さまざまな海藻を食べる文化であることについても展示がありました。日本人の腸内には海藻を消化する細菌がいるということを聞いたとき誇らしい気持ちになりましたが、展示してある膨大な食用の海藻の種類のうち(これが展示の後の土産コーナーで売ってないかなと祈るほど魅力的でした)、はっきりわかるのが数種類だけだったので急に我が腸内のいるとも知れぬ海藻を消化する菌のことが心配になりました。

 歴史好きの方達をも満足させるであろう展示もありました。織田信長が安土城で徳川家康をもてなしたときの料理の再現です。今食べても十分豪華料理で展示を見ていてお腹が空きました。時代もそこそこ離れていて、また歴史上のビッグネームですから人だかりもできていました。確かこの場面何かで見たなと思ったら「へうげもの」でした。確か古田織部が家康に激怒されるシーンでした。その時のおもてなしかどうかはわかりませんが、空想して楽しむには十分な展示でした。
さらに、泰平の眠りをさます上喜撰であった、あの黒船来航のペリーをもてなした料理の再現もありました。このお料理は当時の名料亭「百川」が担当したそうです。百川というとわかる人にはわかると思いますが、四神剣のマクラで有名な落語にもなっています。百川に奉公にきたおじさんが訛りがひどく、聞き違いによって面白いことが起こるという話です。ちなみに料理には直接関係のない話です。江戸の名料亭といえば、王子の扇屋を忘れてはいけません。落語の王子の狐でも出てくるところが、百川と同じですね。今でも買える扇屋の卵焼き、最近食べてないなーと書きながらお腹が空いてきました。ふらっと買いに行くことがあります。でも休日はよく調べていかないといけません。

 ちょっと食から話がずれましたが、サザエさんの漫画の中で扱われている料理を取り上げ、当時の食文化を読み込むという展示もありました。波平さんの食卓(お膳が出ていて、ご飯と味噌汁、焼き魚と小鉢?が乗っていたように記憶しています)が、割と私の思う和食と合いました。多分、今となっては古い感覚なのだと思います笑
 ちなみに公式ガイドブックにあった伝承料理研究家の奥村彪生さんの記事によれば、昭和21年〜25年までのサザエさんの台所には氷の冷蔵庫、一口かまど、薪入れ、七輪、炭団入れがあったそうです。また、連載された昭和21年から48年までの間に高度経済成長期を経て、戦後欧米化も迎え、登場した食事は和風70%洋食20%中華10%程度の割合だったようです。普段は伝統的な和食、たまのご馳走は洋食や中華という感覚がなんとなく親近感を覚えました。これもまた古い感覚なのでしょうね。

 展示を見た後の、個人的な日本料理の分類としては日本料理の中に和食部門と洋食(もともと外国由来だが換骨奪胎してもう和食と言っていいだろうというもの)部門があるという歯切れの悪いものとなりました。例えばすき焼きは和食ですが、カレーライスは日本料理の中の洋食といった具合です。公式ガイドブックには肉食禁止令の興味深い読み物もあったのですがキリがないのでまた別の機会にしたいと思います。もし「和食」展に行ったら公式ガイドブックは是非おすすめです。

食生活はいわゆる生活習慣病との関連が深いと言われています。
むし歯や歯周病もある程度までは生活習慣病と言えます(遺伝的な要因もからむので生活習慣のみとは言えませんが)。普段何気なく食べているものを見直して良いところ悪いところを考察してみる作業は、これからの自分の行動を変えるいいきっかけになるかもしれません。私にはとても良い脳の刺激になりました。行動につながるかどうかは今のところ未定です笑。お読みくださりありがとうございました。

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