睡眠検査について(インソムノグラフ S’UIMIN社)
人生の約3分の1は寝て過ごします。睡眠が生きるために欠かせないものであることは明らかですが、近年「睡眠の量、質」が単に脳や体の休息の範囲に留まらず、免疫や認知症をはじめ様々なことに関わっていることが次々に判明してきています。この傾向で行くと睡眠の重要性は今後さらに高まっていくことでしょう。
確かに当院の専門分野である歯科で言うと、睡眠に関わる部分は閉塞性睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸症候群)や睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり、くいしばり)などほんの一部ですが、当院の目標である「健康寿命の延伸のお手伝い」という立場から、大切な睡眠を見直す機会を御用意することは、歯科分野に限らず長く健康にお過ごしいただくために大変重要であると考えました。
歯科は他の分野に比べて、健康なときに(定期検診などで)来ていただきやすく、日常の中で睡眠検査の重要性をお伝えするのに適していると考えたことも、検査の導入を考えた理由の一つです。
現在はスマートウォッチやスマートフォンなどで睡眠時間やいびきなどの計測が簡単にできるようになっています。これも「毎日手軽にできる計測」という意味では大変に優れたものです。他のもので例えれば、毎日の血圧測定や、毎日体重計に乗ることなどがこれにあたると思います。
しかし血圧が高めの原因や、体重の増減の理由となると、毎日の血圧や体重の測定のみで原因の考察をするのは難しいでしょう。
睡眠の場合、医療において測定の基本となるのは「脳波」です。スマートウォッチやスマートフォンでは現状脳波の測定はできません。
医療現場で睡眠を解析するためにはPSG検査という検査をします。
脳波や呼吸の状態、心電図、いびき、酸素飽和度、体動(脚の動きや寝返りなど)を測定するために頭や体に電極やセンサーなどをつけて、病院に宿泊して検査を行います。
このようにして睡眠検査を行うのが現在のゴールドスタンダードです。
しかし、いつも使っているベッドや自室で測定できないこと、検査のため病院に宿泊しなければならないこと、現在、成人の5人に1人が睡眠に問題を抱えている(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトより)とも言われている状態であるにもかかわらず検査できる施設が限られること(現状約1000床程度と言われています)、これらを考えると現状、睡眠検査の機会が容易に得られるとは言い難い状況です。
この状況を鑑み、当院では自宅でできる睡眠検査(インソムノグラフ S’UIMIN社)を導入いたしました。
(S’UIMIN社HPより)S’UIMIN社は、筑波大学発スタートアップ企業として2017年10月17日に発足しました。「世界中の睡眠に悩む人々にとっての希望の光となる」をビジョンに掲げ、睡眠障害を効果的に予防、正しく診断することで、一人ひとりが睡眠で悩むことなく幸せに生活を営める社会を実現していきます。(引用ここまで)
S’UIMIN社代表取締役である柳沢正史教授は、世界トップレベル睡眠研究機関である筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の機構長を務められています。柳沢教授は、新規生理活性ペプチド「オレキシン」を発見し、過眠症「ナルコレプシー」の病態を解明しました。さらにそれが過眠症と不眠症の治療薬に結び付いた実績が評価され、米スタンフォード大学のEmmanuel Mignot博士とともにブレークスルー賞を受賞なさっています。
(ブレークスルー賞は米グーグルの創業者らが2012年創設し、基礎物理学、生命科学、数学部門で毎年、受賞者を選定。生命科学部門は、難病治療などで功績の大きい研究者に贈られます。同部門で日本人の受賞は、ノーベル賞を受けた山中伸弥氏や大隅良典氏、米ラスカー医学賞を受けた森和俊氏に続いて4人目です。)
(https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/news/3044/)
インソムノグラフは自宅でできるということで既に十分魅力的だと考えますが、検査の流れも非常に単純です。種類は5晩計測と2晩計測の2種類があります。(2晩計測は簡易版とお考えください。基本的に睡眠専門医のレポートがつく5晩をおすすめしますが、基本的なことのみ調べたいということであれば2晩もおすすめできます)
こちらでも概要を確認できます(S’UIMIN社のレポート概要説明ページへ移動します)。
費用は (5晩計測)26,400円 (2晩計測)16,500円です。
1 当院で検査の申込みをしていただき、スマホ等で睡眠アンケートや必要事項を入力、自宅に計測デバイスが届きます。
2 自宅で計測(基本的に5晩)していただきます(計測デバイスの返却はコンビニ等から返送していただきます)。
3 その後睡眠評価レポートが届きます。
就寝時にデバイスをつけたときのイメージはこのような感じです。
PSG検査に比べてだいぶスッキリとした印象で、何よりもいつも寝ている環境で測定できるのが最大の強みだと考えます。
では、お手軽なのは良いけれど睡眠検査のゴールドスタンダードであるPSG検査にくらべて精度は大丈夫なの?という疑問があると思います。
S’UIMIN社によれば「従来の睡眠検査のゴールドスタンダードであるポリソムノグラフ検査との同時計測試験で、中央値87%の一致率(論文公開予定)を確認しています。ポリソムノグラフ検査の煩雑さを大幅に軽減しながら、臨床レベルの解析精度を維持しています」とのことです。
一般の方には少し難しい表現かもしれませんが、臨床検査と同等の精度を持った、手軽に、自宅のベッドでできる検査と考えていただいてよいと思います。
では、どのような方がこの検査に向くのでしょうか。
既に明らかな睡眠障害が疑われる症状がでている方は、睡眠専門医が在籍する保険医療機関を受診すべきだと考えます。大きないびきをかいている、就寝中、脚などに異常な感覚がある、日中の眠気が非常に強い、同居者から就寝中息が止まっているときがあると言われた等がこれにあたると考えられます。
この検査に向いていると考えられるのは
・よく眠れないように感じるが、要因が分からない(睡眠時無呼吸かもしれないが、そうでない可能性も考えられる)
・日中の不調や眠気があるので、よく眠れているか、眠れていないなら原因は何かを調べたい
・睡眠の質や、不眠の有無・程度を確かめたい
・もっと良い睡眠をとるためにどうすればよいのかを知りたい
・美容、ダイエットなどの特定の目的のために、睡眠の向上に取り組みたい
上記のような目的をもつ方と考えられます(適応は計測に使用する電極が頭囲52cm以上の方を対象としている為、中学生以上の方なら問題なく計測できるかと思います)。人間ドックなどでCTやMRIなどのオプション検査があると思いますが、それと同じような感覚でとらえていただけれとよいでしょう(はっきり症状がある方であれば人間ドックでオプションを付けると言うよりは病院を受診しますよね)。
検査の結果、必要であれば専門医をご紹介いたします。
人生の(毎日の)3分の1を健康的に過ごせているかどうか、興味のある方はご相談下さい。