歯科のメインテナンスについて
治療より難しいメインテナンス?
皆さんは、歯のメインテナンスにどのようなイメージをお持ちでしょうか?『治療とは違うから簡単そう』、そう思われている方もいるかもしれません。しかし、実はメインテナンスには、治療以上に奥深く、そして難しい側面があると私は考えています。ちなみに「メインテナンスについて何ヶ月ごとがおすすめです!」みたいな記事は私が書かなくとも巷に溢れていると思いますので違う切り口を目指したいと思います。
先ほど挙げたメインテナンスの難しい側面の最たるものは「とても困っているところや、痛みが(特には)ない」と私は考えます。もう少し説明しますと、例えば歯がひどくしみる時、歯ぐきがものすごく腫れている時、何もしないでもズキズキする時などは、忙しかろうが必ず時間を作って歯科を受診するのではないかと思います。しかし痛くないと(特に困っていることがないと)皆さん毎日忙しいでしょうからついつい後回しになりがちです。難しさとはまさにこの点です。
私にも覚えがあります。古くは小学生の夏休み、ついついまだ7月だからと思い宿題を後回しにし、気づけば8月最終週だったこと(注・中学生ではその科目の休み明け最初の授業まではロスタイムだなどと時間割を見て優先順位を決めることになります)。現状で言えば、家族の写真の整理なども、現状差し迫った問題ではないのでついつい後回しになっています。もちろん、ついつい後回しにしてしまうことが由々しき事態であることは重々承知です。皆様も思い当たるところがあるのではないでしょうか(なかったらすみません)。
健康は お手入れなしでは 続かない
となると「健康、つまり気になることがほぼ何もない状態は素晴らしい。そしてこの状態は何にもしなくても勝手に持続するのではない」という考えの優先順位を上げなくてはならないでしょう。
メインテナンスについては歯科においても医科においても、ほとんどの場合は、各人に多くの部分が委ねられています。歯科で言えば歯の治療自体はもちろん歯科医が主導です。患者さんが家でむし歯や歯の神経の治療などできるわけがないのですから、患者さんにはアポイントに来ていただくことや、治療中の歯をなるべく使わないようになど気をつけていただくことが最も大事なことです。しかし、治療後に定期的にメインテナンスに通うこと、歯をできるだけ大事に使っていただくこと、例えばかぶせものの部分をむし歯にならないように、ブラッシングをすることや砂糖のとりかたを工夫すること、余計な力がかからないようにマウスピースを毎晩使うことなどは患者さんご自身のことになります。当たり前ですが毎日私が見張るわけにはいきません笑
日常生活の重要性
つまり(医科や歯科の)専門家ではない患者さんご自身に、治療結果を支える非常に多くの部分(ほとんど全てと言っても良いでしょう)が委ねられているということになります。むし歯だけではなく、歯周病についても、例えば歯周外科手術をしてやっと安定したところも、その後のブラッシングがなかなか当てられないという状況が続くと、また歯周病が進行してしまうことになります。
ちなみに、老年医学の分野については私はど素人ですが、歩行困難になってしまう大きな原因の一つにヒザの痛みが挙げられると思います。そのヒザの痛みも多くは生活習慣から来ているでしょうから、基本的な対処としては筋力トレーニングなどの運動や、減量ということになろうと思います。ヒザに負担がかかりやすい歩行の仕方や、姿勢などもあると思います。膝の水を抜いたり、鎮痛薬を使うということはおそらく決定打にはならないのではないでしょうか。毎日のケアが治療と同じく重要なのは歯科だけではありません。例は他にいくらでもあると思います。
しかし、体の各部分にすでに症状が出ている方もそうなりたくてそうなったわけではないはずです。一所懸命に毎日毎日を過ごしていたら(いつの間にか)こうなっていたという方がほとんどでしょう。
健康状態には「環境」も大きな影響を与える
あるひとの健康状態に影響を与えるのは価値観の他に環境が大事だといいます。
例えば、仕事の後の飲み会が大好きな上司のチームに所属していたら、スマドリ(お酒にとらわれず各人が好きなものを飲む)と言われる世の中でも、(全くお酒が飲めないのでなければ)お酒を飲まないわけにはいかない空気があるはずです。飲んだらついつい食事も進んでしまうでしょう。勢いで締めのラーメンまで行ってしまうに違いありません。仕事以外でのコミュニケーションの効果を知っているからこそついつい選択してしまうことだと思います。スマートに帰れるチームだったとしても、仕事が多忙でストレスが多い、帰り道に美味しいラーメン屋さんや、遅くまで空いているケーキ屋さんがあったとしたら、ついつい寄り道してしまうはずです(どんな人にも当てはまるのはコンビニでしょうか。ここには能力のある人が考え抜いた、ツマミやスイーツ等々、「欲しくなる商品」がたくさんあります)。
下記太字部分引用「健康になる技術 大全 林英恵」より
人は、自分の周りにいる人からも、知らずしらずのうちに影響を受けます。結婚しているかどうかやその質(仲の良い夫婦かどうか)や一緒に住んでいる人の有無なども、日々の食事や飲酒量などの健康習慣に影響を与えます。さらには、死亡率や病気の発生とも関連している可能性が報告されています。また、肥満のリスク、飲酒量、禁煙できるかどうかなどは、つきあっている友だちの影響を受けます。人間は、あらゆる人間関係において、周りがどう思うかを気にしたり、周りに合わせた行動をとろうとしたりするからです。
引用ここまで
このようなことにも述べられています。
個人の考え、価値観の転換ということも大事ですが、環境も非常に重要だということがわかります。
環境を変えるのは大変そう、、、
さて、環境を変えることは可能でしょうか。ちょっと考えてみましょう。
飲みが多いチームだからと行ってチームを変えてくださいということは可能でしょうか。美味しいラーメン屋に引っ越ししてもらうのも難しそうです。コンビニは、、、食べ物だけでなく宅配やコピー、チケット、公共料金の支払いなどなど便利です。近所に、あって欲しいですよね。
環境を変えることはパッと考えただけだとなかなか難しそうですが、工夫の余地はありそうです。
では価値観は変えられる?
では価値観を転換させることはどうでしょうか。
健康についての価値観は、まず知識に触れるというのが一番だと思います。ネットで検索するのもいいのですが、できることなら書籍をあたるのが無難でしょう。生成AIは網羅的な知識や、知識を得るための学習方法を相談することも可能ですが、まだまだ本に当たることに意味はあると思いますし、後述しますが本には生成AIにはできないこともあります(背表紙を記憶を呼び戻す手段として利用する方法です)。ちなみに医療系の書籍はトンデモ本が含まれがちなので、ある一人の先生や治療法がすごいという内容の本ではなく、その病気について総論的な知識が得られるものを読むのがいいのではないかと思います。
それらを網羅的に読んで知識をまとめて重要性を理解し、行動に結びつければOKです!というと簡単ですが、そんなことできれば苦労ありません笑
背表紙リマインダー法 生成AIの利用
個人的におすすめなのはその本を部屋に飾るのがいいと思います。いつも視線を向けるたびに嫌でも背表紙が語りかけてくると、、、そんな気持ち悪い環境を意識しているわけではありませんが、こちらが意識しなくてもいつでも目に入るようにすれば思い出すきっかけになりますし、本当に気が向けば正しい専門性が担保されている情報を得ることもできるわけです。スマホの中ではなく、リアルな環境に置くことがポイントだと思います。テレビを置いている棚やリビングなどいつも目にするところに置いておくのが良いと思います。積読でも一向に構わないのです。どうしても本が嫌なかたは、生成AIにデイリータスクとして毎朝6時に歯科のメンテナンスの良さを伝える記事を送ってということを頼むこともできると思います。今ではスマホが進化してきたから重要性は減ってきているかもしれませんが、個人的に本の背表紙リマインダー法はおすすめです。興味を惹かれた事柄について、関連する本を買って、普段の生活で目につくところに置いておくと、興味のあったこと自体を忘れるということが防げますし、定期的な学習も忘れません(いやでも目に入りますから笑)。
仕事など重要なことはどんなことがあっても忘れなくても「自分にとって重要だけれど緊急性がないこと(時間管理でいう第二領域や、B領域と呼ばれるところのことです)」は、忘れないための工夫をしないと忘れたくないのにすぐに忘れてしまいます。もしかしたらこの辺りは手帳で管理している方もいらっしゃるかもしれませんね。
そのほかのアイディアとしては、自分のことだとついつい後回しになってしまうので、周りの大切な人を思い浮かべて、その人のために知識をつけるという取り組み方はいかがでしょうか。伴侶やお子さん、兄弟、親戚、親しい友人などその方によっていろいろあるでしょう。実際にその情報を相手に伝えるかどうかは別として、学習のきっかけにすれば良いのです(実際に伝えたところで健康の話題は押し付けがましくとられてしまうことも多いのではないでしょうか)。大切なひとが思い浮かばないということであれば、自分を大切にするということでももちろんいいのです。
香を焚きしめるがごとく歯科に親しむ
このように香を焚きしめるがごとく、歯科その他興味のある、あるいは興味を持ちたいことに触れることにより、メインテナンスのアポイントの予約電話や、いつかやってみたいことの学習などのチャンスを作ってはいかがでしょうか。また実際、来院していただくことにより、家でのケアやその人その人に合わせた予防の優先順位をアドバイスすることもできると思います。主役はあくまで患者さんです。我々は主役を引き立たせる脇役として口腔内の、ひいては健康寿命の延伸のお手伝いができればと存じます。書きながら薄々感じてはいましたがやはり歯の磨き方の話にはなりませんでしたね。しかし内面の話こそ重要と私は考えています(格好つけて書いている割には自分自身が後回しの罠にハマってしまうことはよくあります。私も日々勉強です)。
多くの方々はスマホでご覧になっていると思います。長々と画面スクロール重ねてここまでお読みいただき有難うございました。
