意外な顕微鏡使用の利点
日々の診療において顕微鏡はいつも必要なものではありませんが、ここぞという時、診断、治療あらゆる面で欠かせないものとなっています。顕微鏡が無い時代は、私はどうやって治療していたのだろうと思うほどです。
ちなみにいつも必要なものでは無いというのはどのような意味かというと、顕微鏡がなくてもできる処置でも顕微鏡を使えばよく見えはしますが、ことさら処置の精密さが上がるわけでもありません。かえって時間ばかりがかかってしまい非効率的になります。例えば車の運転で、見通しの悪い交差点や狭い路地など運転の正確さが要求される道路では徐行したほうがいいと言えますが、見通しもよく路面も安全なところはサッと行ってしまった方が効率的だということです(伝わったでしょうか。)。
話を元に戻します。
根の治療(神経の治療 根管治療)においては特に顕微鏡が役に立ちます。歯の中にある神経が通っている管は非常に細く、そこを見なくてはならないのですから拡大視野は非常に助かるのです。
しかし今回の主題は、「顕微鏡が根の治療に役立ちますよ」という話ではありません。
根の治療にはもちろん役立つのですが、根の中を触る前段階に「歯の土台(コア)をとる」ということがあります。
その土台を除去するのに顕微鏡が非常に役立ちますというお話をしたいと思います。
土台(コア)にはメタルコア、レジンコア、レジンコア+スクリューポストなどさまざまな形態がありますが、どれも根の治療をした部分を塞ぎ、歯の被せ物をするために歯の形を単純化する目的で使います。
さしあたり
・メタルコア 金属製のフタ
・レジンコア むし歯の治療でも使う光で固める歯の色と同じような色の強化プラスチックのフタ
・レジンコア+スクリューポスト 上で説明したレジンに加え、維持のため金属製のネジをあわせて使うフタ
とご理解くだされば良いです。
土台(コア)とは簡単に言えば、根の治療をした空間を塞ぐ「フタ」です。
つまり、根管治療のフタであるメタルコアなど土台の部分を除去しないと根の薬が入っている部分にたどり着けないのです。
土台の除去は意外と軽視されがちですが、根管治療の最初の山とも言えます。
言葉は悪いですが、いい加減に取ろうと思うとコアの除去に伴って歯も一緒に削ってしまいます。
根の治療をすでにしてある歯はもともと歯が少なくなっている傾向があるので「メタルコアは除去できたけど残った歯がさらに薄くペラペラになってしまった」となると、仮に根の治療が上手くいったとしても、歯の寿命は著しく短くなってしまうと予想されます。根管治療済みの歯の抜歯原因の第1位は歯の破折という文献も存在します。
歯に被せ物をする理由は、残りの歯の部分が少なくなってしまった歯が割れてしまわないように歯の強度を上げるためですが、極端に薄くなってしまった歯に被せものをしたとしても強度が上がる効果はかなり限定的になってしまいます。
被せることが歯の強度を上げることに役立つと言えど、やはり残っている歯の厚みは厚い方が有利と言えるのです。
歯科用顕微鏡を使ってメタルコアを除去していると、メタルコアをつけるために使った接着剤の層を確認しながら除去することができます。それ以上触らなければ歯を余分に削ることは防げるのです。
またレジンコアは金属では無いので削りやすいですが、メタルコアと比較的して除去が簡単かと言われるとまた全然別の難しさがあります。レジンコアは歯の色によく似ているのです。メタルコア除去時と同様に、顕微鏡がないと余分なところを削ってしまう可能性がどうしても高くなります。顕微鏡を使ったとしても除去は決して容易ではありません。
コアの除去は冒頭の車の運転にたとえると、近くに学校のある住宅密集地の五叉路を、ちょうど子供が遊びから帰る薄暗くなってきた夕方の時間帯に通るようなものです。もちろん最徐行が必要ですよね。この処置に顕微鏡は非常に役立ちます。