味噌の仕込み
先日、味噌作りに行ってきました。
「行ってきました」というのはどういうことかと言いますと、農家さんで朝から夕方頃まで味噌の仕込みのお手伝いをすると、その後の味噌の管理は農家さんがやってくださり、概ね秋ごろにできた味噌が家に届くという非常にありがたいご縁がありまして、その仕込みに行ってきたということです。
仕込んだけれども管理はおまかせですから「手前」とは言わないだろうな等々思うところはありますが、思えばもう20年弱、ここの味噌のお世話になっています。
今回は家族親戚で大挙して押しかけた(笑)ので、一緒に仕込みにいらしていた他の方にはご迷惑だったと思います。すみません。
作業はまずは衛生管理から始まります。清潔なエプロンをして、髪を落とさないよう不織布の帽子をかぶり、粘着ローラーも使用(いわゆるコロコロですね)、マスク、グローブを付け、もちろん手洗いもしっかりしてグローブもします。
発酵食品の技術とは、食品に有用な菌をいかに早く増殖させるか(覇権を取らせるか)という技術だと思います。昔はそこまで衛生観念もなかったでしょうし、実際ある程度いい加減にやってもしっかり発酵食品はできるくらいに歴史に揉まれて(人体実験を繰り返し)発酵技術は磨かれてきたのだと思いますが、人間に有害な菌を可及的に少なくするという取り組みは食品製造にとって重要だと思います(当たり前ですね)。このあたりは歯科も全く同じ考えと言っていいと思います。清潔域と不潔域を分けるなど医療の基本知識が味噌作りにも役立ちます。主に手を洗った後に触っていいところとダメなところの考え方、手の振る舞いなどのことです。
お世話になっている農家さんのお話では、今回は作業の説明をしているときにみんな胸の前で手を組んでいたのでびっくりしたそうです。私自身、手を清潔にした後に胸の前で手を組む意味は、洗い終わった清潔な手に余計な(不潔な)ところを触って細菌をつけない、低いところに手を置かない、要は手を清潔に保つことだと思っています(手をぶらんとしていると、図らずも色々触ってしまいますよね)。子供たちには、手を清潔にと言ってもわからないだろうから、作業をしている時以外は味噌が美味しくなるように祈るようにと言っておきました。
次に麹の仕込みをします。蒸したお米をある程度冷ましながら台の上に広げ、種麹をふりかけ、なるべく均一にお米につくようにしました。台の上に広げたばかりのお米はとても熱くて、迂闊に触ると火傷します。最初は大きいしゃもじを使って広げていました。これは当日には使えないので後日使う麹となります。当日使う麹は用意してくださっています。
午前中の作業はこれで終わりです。ゆっくりとランチをとりながら休憩です。
午後は煮た大豆をミンチ状にします。モンブランの上に乗っかっているものを想像していただくと良いと思います。煮た大豆をすくう係、すくった大豆をミンチ状にする機械に放り込む係、モンブラン状になって出てきた大豆を桶に均等に入れる係に分かれます。今回、うちの家族は40キロほど仕込むことにしました。味噌汁を作るとなるとどうしても、出汁を取らなくては、具はどうしようというハードルがあると思います。「今から作るのは面倒だし、まあ味噌汁はいいか」と諦めるのがちょくちょく続くと重大な機会損失になると思い、ともかく味噌を溶いた汁を飲もうと考えました。出汁は取らずにマグカップに味噌を放り込んで、乾燥わかめをパラパラと入れて電気ポットで沸かしたお湯を注いでいただきます。他所でも書いていると思うのですが、これが私が考えうる限りの「ほぼゼロハードル味噌汁」です。驚いたことに出汁がなくとも美味しくいただけます(私の舌が鈍感なだけかもしれませんが)。そのくらい美味しい味噌です。
その後は麹に塩を入れ、モンブラン状の大豆と混ぜます。
いよいよ、いわゆる味噌玉を作って投げ込んで空気を抜くという工程です。子供たちは、おりゃーと言いながら味噌玉を投げていました。外すんじゃないかとヒヤヒヤして見ていました笑。私ももちろんやったのですが、先生(農家のかた)は我々が遅かったのか少し手伝ってくださり子供の頭を優に超えたサイズの味噌玉を投げ入れてました。あ、私の投げ入れてた味噌玉は小さすぎたんだと気づきました。
投げ入れた後は味噌の表面を水平にならします。私に言わせるとこれが最も難関です。私が、まあこれくらいでいいんじゃないかと思うとまだまだ凸凹と言われます。この仕事に関しては私は一切手を出さず他のメンバーにおまかせをしています。
その間、私は(サボっていたわけではないのですが)そこの農家さんで作っている蕎麦の実を分けてもらっていました。蕎麦の実を少しご飯に混ぜ込み一緒に炊いて食べるのがとても美味しいと思います。白米の味にほんのり蕎麦の香りと蕎麦の実の歯応えが加わります。家族に聞くと、そばはそば、ご飯はご飯で食べたほうが美味しいと言われてしまうので、食べたいときは炊飯器が空いている時にこっそり炊きます。
夕方になり解散です。子供たちは途中で飽きるのではないかと思っていたのですが、集中して作業に取り組んでいました(途中で飽きて作業場の外へ出てしまうと、また消毒のやり直しになってしまうのです)。最後の挨拶で「来年もまたよろしくお願いしまーす」と言っていたので、来年も仕込みにくるつもりになるくらい楽しかったのでしょう。まあどろんこ遊びが味噌玉になったって感じなんだと思います。ついでに食育の一つになったかなとも思いました。
昔の保存食作りはもっと切実だったでしょう。保存食がうまくできるかどうかが生死を分けるとは行かないまでも生活の重要な部分を左右するといったシチュエーションはあったのではないかと推測します。もしそこで子供がお遊び感覚で例えば味噌玉を外に投げてしまうなんてあったら大人は激怒するでしょう。「飢えたらどうするんだ」と。
現代の日本において「飢え」を実感することはまずないと思います。食べ物を粗末にするなと言っても子供には??という感じではないでしょうか。私も子供の頃、親から「世界にはまだまだ食べ物がなくて栄養失調で成長できない子供がいたり、飢えて死んでしまう人々がいる」と教えられましたが、正直言って得心するという感じではなかったと思います。体験したわけではないですし、まだまだ想像力が足りなかったのだと思います。農家の方が一生懸命に作った米粒を残すなというのも現代の子供の心には届きにくいのかもしれません。それならば米作り体験をさせた方が有意義かと思われます。学校でもそのような取り組みがなされているところもあると思います。
「人間は何を食べてきたか(NHK出版)」という本があります。もとは映像のシリーズだったようですが私は本で読みました。ネット検索してみると何故かDVDがスタジオジブリから出ていて、あれ?NHKのドキュメンタリーだったはずではと思いさらに調べました。すると、宮崎駿さん等がこのドキュメンタリーを見ていたく感動し、このまま1ドキュメンタリーとしていずれ埋もれてしまうのは勿体無いということで放送権を買い取りジブリ学術ライブラリーとしてDVDを出したという経緯らしいのです。私自身、幼少の時期からジブリには随分お世話になりましたが「ジブリ学術ライブラリー」という存在は初めて知りました。他にも映像作品があるみたいです(ナウシカやラピュタを想像してはいけません笑)。
私も本を読んでですが「人間は何を食べてきたか」に感動しました。その中のエピソードに、ジャガイモの取材で極めて伝統的な方法で栽培をしているアンデスの村を訪ね、その村の一家族に密着取材をするというのがありました。ある時、取材班がジャガイモの貯蔵庫を見せて欲しいと話すと、穏やかだった村人の表情が曇り、結局は断られてしまうという記述がありました。現地に詳しい人の解説だと村人にとってジャガイモは財産であり生命線なので、たまさか取材に来て貯蔵庫を見せてくれと言われても、それは断られるのも無理はないだろうということでした。今でいえば、紹介があったとはいえ異国から来た普段からの付き合いがない人に金庫の中や預金通帳を見せてくれと言われるようなものでしょうか。
現代日本人は良くも悪くも食物にこれほどの重要な意味づけをしていることは既にないと思います(かつて税金や給料として米が使われていた時代は違うと思いますが)。
食物に対しての重要な意味づけも、強烈な体験もない以上、個人的に子供の頃の食育は切実さではなく「楽しい」で教える方針がひとまずは良いのではないかと考えています。
現代日本では外食産業、冷凍食品、お惣菜、コンビニエンスストアなども高度に発達し、味と値段以外に食品に関わる要素が希薄になっていると感じます。強烈な飢えの体験などあれば別ですが、想像力が発展途上にある子供であれば、わかりやすくおいしいかおいしくないかがほぼ全てになってしまうと思います。そこへ自分が関わる体験をプラスすると食物への思いが変わるのではないでしょうか。子供の料理(のようなもの)を見守るのは、大変ですよね。親は手を出すのを耐えるのに必死です。あー、私がやった方が汚れずにしかも早いのにと思います笑。自分がお手伝いしてできた味噌はおいしいでしょう。自分で握ったおにぎりも、身近な人と焼いたパンケーキもいつもよりおいしいに違いありません。少し前に話題になった農林水産省がフライパンでの炊飯を紹介した記事も、子供は意外と楽しくやるのではないかと思います。格好いいことを言いつつも正直申し上げて、我が家は何だかんだ言って面倒くさがり、体験をさせることが億劫になってしまうこともしばしばです。以前、自宅でメスティンという外国の飯盒?と固形燃料を使ってベランダで炊飯をした時は子供が面白がっていたので、フライパン炊飯もやってみようと思います。
歯科において口腔機能の「食事」の部分を考えるときに、食生活を考えることはこれから成長期を迎えるお子さんにとって、むし歯の予防という意味ではもちろんのこと、生活習慣病予防の観点からも非常に重要な意味を持つと考えます(歯科医院で一般的と考えられている砂糖の摂り方の知識や酸蝕症の知識、ブラッシング指導やフッ化物の使い方も大事です)。もちろん、私は食育についての専門家ではないので大したことは申し上げられませんが、これはうちでウケたというアイディアは共有していけたらと思います。皆さまのアイディアもぜひ聞かせてください。