歯の矯正について
「こどもの前歯が出ているのが気になる」「食事に困っているわけではないけれど歯がたてこんでいるのが気になる」などの相談をしばしば伺います。小学校の歯科検診に行っても矯正中のお子さんがずいぶんと増え、歯ならびへの皆様の関心の高さが伺えます。
また、おとなの方からは年齢によって矯正ができるできないはあるのかという質問も受けることもあります。
ここでは歯ならびの治療(矯正治療)についてのお話をしたいと思います。
お子さんの矯正について
まずお子さんの矯正の場合には年齢によって考え方が異なります。
お子さんひとりひとり歯の抜けかわりに差がありますから、一概に年齢では区切れないのですがおおまかにわけると12歳頃というのは一つの目安になると思います。
1期治療(〜12歳頃まで)
2期治療(12歳 永久歯列完成以降)
1期治療のメリット
いわゆる1期治療で矯正治療を行うメリットは
「成長発育を好ましい方へ向けられる可能性がある」ということです。
例えば上の歯ならびが非常に立て込んでいて、通常永久歯列になってからだとほぼ確実に歯を抜いてスペースを作らなくてはならないようなケースでも、小学生のときから治療を行うことにより抜歯をしなくても済むようになる可能性もあるということです。歯のU字の歯列の拡大や、上顎の成長を促したり、下の顎の成長を促したりと、それぞれの状況に応じて治療で使う装置を使い分けます。
早く治療をすれば歯を抜かなくてすむかどうか
ここで注意しなくてはならないのは、早い年齢から治療をすれば歯を抜かなくて済むか、矯正治療が早く終わるのか、というと必ずしもそうではないということです。
歯を並べるスペースを作るには
1 歯を抜く
2 歯列(歯ならびのアーチ)を拡大する
3 奥歯を後ろへ動かす
4 前歯を前方へ広げる
5 歯の幅を少しずつ削る(専門用語でIPRと言います)
など様々あります。
歯を抜くというのはもっともスペースが稼げるやりかたですが大切な歯をうしなってしまうというデメリットもあります。
しかし歯を抜かずに他の方法で歯を並べるスペースを作ろうと思うと、歯列を不自然なまでに広げる事が必要になったり、また前歯をかなり前に倒して(いわゆる出っ歯の方向に)スペースを作らなければならないということも出てきます。
矯正治療のゴールは歯をきれいに並べることはもちろんですがそれだけではなく、適正とされる横顔を作る、適切な上下の噛み合わせを作るというのも重要なゴールです。
とても極端な例を挙げますと、歯を抜かずにきれいに並べられたのはいいけれど、横から見ると前歯がとても出ているようにみえてしまう、ということになると皆様の求めるゴールとは異なることも多いと思います。そして、お子さんの成長を待ちながら治療を進めていくということもあり、器具をつけている時間は永久歯が生え揃ってから治療をするより長くなるということもあります。特に反対かみ合わせの場合は、第二次性徴期に下の顎が大きく成長するので、いわゆる成長をしきった時期までは確定的な治療を待つことがあります。
バランスよく方法を組み合わせることが大切
もともとどの程度スペースが足りないのか、またどの方法を組み合わせて使えばバランスの取れた歯列、横顔を作れるのかというのは、皆様のお口の中を再現した模型、頭蓋骨を含めた横顔のレントゲンや写真などをみて、各年齢の平均値を参考にしつつ分析するということになります。お子さんの場合には第二次性徴期に顔つきも変わってきます。そのバランスを取る上で歯を抜いてスペースを作るという方法が必要となることもあるのです。もちろん、横顔のバランスや上下の噛み合わせ、適正なU字の歯列を、歯を抜かずに歯を並べ切れることがもっとも理想的なことであることは言うまでもありません。
協力してゴールへ
先程述べましたとおり、成長期のお子さんの場合には文字通り成長がありますから、これを好ましい方向へ追い風を吹かせることができるような装置を使うことにより歯を抜くことをしなくて済み、バランスの良い歯列、横顔になるよう方向づけられればそれが一番望ましいゴールだと考えています。そのためには矯正器具を正しく、適切な時間使っていただくことが非常に重要なことです(使用時間が短くては矯正の効果が出ません)。大人ならまだしもお子さんの場合には、器具に慣れるというのも一苦労で、そのため保護者の方々も悪戦苦闘することもありますが、お子さん、保護者の方々、我々歯科医療スタッフが協力して治療をすすめることが最も大切なことであると思います。
大人の矯正治療
大人については小学生のお子さんの矯正とは違い、成長という部分はありません。年齢制限も特別にありません。
ただ大人の場合、歯を動かすにあたって歯周病の状態というのは気にしなければなりません。「歯周病(ししゅうびょう しそうのうろうとも言う)」は歯の根を支えている骨(歯槽骨)が溶けてしまう病気です。歯周病の炎症がコントロールできてないうちに歯を動かすことは大変危険と言えます。
また顎関節の状態も診断します。大変稀ですが進行性下顎頭吸収(PCR)という病気があります。これは難病指定されているものです。
下の顎が小さくて上の前歯が出ているように見える噛み合わせの場合は特に注意してみることが重要です。
また上顎洞と呼ばれる誰にでもある上の奥歯の上の方にあるお鼻と繋がっている空洞の大きさは個人差が大きく
ここの大きさによっては歯の動きが大変難しくなってしまう可能性もあります。
事前にできる限りの診断をして、歯ならび、歯の傾き、横顔のバランスなどを考えながら治療方法を立案していきます。
マウスピース矯正( ジーシーオルソリー Transclear システム)
金属の線や歯につけるボタンなどを使う代わりに、取り外しのできるマウスピースを使う矯正というものもあります。当院ではジーシーオルソリー社のトランスクリアシステムを導入しています。
マウスピースでできる矯正のメリットは、患者さん側で考えるとなんと言っても目立たないことです。いわゆる金属の線や歯につけるボタンを使わずにできるということで、鏡で見てもほとんど不自然な感じがありません。目立たないということは舌側矯正のメリットでもありますが、異物感はマウスピースの方が遥かに少ないですし、取り外しもできます。
また口の中の器具の凸凹した存在感を減らすことができ、ブラッシングなどのケアも器具が口の中にない状態で行うことができます。
デメリットはこのように書くと変ですが、「取り外せてしまうこと」です。マウスピースは矯正力を歯に伝えるものですので、特に新しいマウスピースをはめたばかりの時には違和感や多少の痛みを感じます。その時に、つい取り外す時間を長くとってしまうとなかなか目標通りに歯が動かないということになってしまいます。つい外してしまう時間が長くなり、それがどんどん積み重なると最終到達点がシミュレーションと大きくずれてしまいます。これを「アライナーラグ」と言います。ズレるだけならまだしも、途中からマウスピースが入らなくなってしまうということも起きます。そうなると、入らなくなった時点でから改めて設計のし直しということになり、多くの場合追加の費用がかかってしまいます。こう書いてあると嫌になってしまうかもしれませんが、最大の長所が最大の短所となってしまうという側面があります。誤解していただきたくないのですがマウスピース矯正は大変素晴らしいものです。しかし決して「お手軽なものではない」ということです。食事と歯磨き以外(20時間)はマウスピースをつけていてくださいと患者さんにはお願いしています。
また、適応症例が限られるというのも知っておかなくてはならないということです。歯を抜いてスペースを作り全体的に歯を動かす矯正は基本的に適応となりません。前歯だけの移動で済むものが適応となります。多くの場合、矯正希望となるのは歯が立て込んでいる状態です。その場合、歯を前に出して並べるということができないようであれば、きれいに並べるために歯の側面を歯に影響のない範囲で削りスペースを作り出すということをします(IPRと言います)
実際にどのタイミングで、どこの場所に、どの程度歯を削るかは型取りをして作った模型をスキャンし、コンピューター上でシミュレーションします。治療前には患者さんにシミュレーションをPC上でご確認いただき、良さそうであれば治療を開始します。
マウスピース矯正は一部で、わりとお手軽なイメージで紹介されているという側面もあるみたいなのでしっかりと必要なことをお伝えしていきたいと思います。他の矯正治療同様にしっかりと取り組む必要があります。
少し大変そうなイメージをお持ちになったかもしれませんが、マウスピース矯正は適応が合えば、非常に魅力的な選択肢になることは間違いありません。
一般的な矯正とマウスピース矯正の使い分け
一般的な矯正治療とマウスピース矯正の使い分けはどうなっているのかというと、イメージの助けになるかもしれない例えをご紹介したいと思います。(作成途中)