TCH(上下の歯をくっつける癖)、歯ぎしりくいしばりについて
1日に上と下の歯がついている時間
今までされたことのない質問、考えたことのないことかもしれませんが、
1日で上の歯と下の歯が接触している時間は、正常であればどのくらいかご存知ですか?
治療のときにこのような質問をすると、「えーっと3時間くらいかな」と答えが返ってくるときもあります。いちいちそんなことを考えて暮らしているかたはいらっしゃらないでしょうから、わからなくて当然です。
答えとしては、17.5分という報告がされています。
この17.5分に含まれているのは、会話と食事(噛む時、飲み込む時)に接触する時間です。1日で考えると24時間中の17.5分ですから、異常がなければ「ほとんどの時間で上の歯と下の歯は接触していない」と考えていただいてよいとおもいます。
歯の接触時間が増えてしまうきっかけ
しかし会話と食事以外の時間で、歯が接触する時間に思い当たる方も多いのではないでしょうか。パソコンの画面に向かっているとき、重いものを持っている時(赤ちゃんを背負うなども含む)、運動をしている時、読書をしている時、料理のときに包丁でものを切っている時など、人それぞれ色々あると思いますが、概ね「集中(没頭)して何かを行うとき」「失敗してはいけないと緊張して何かを行うとき」が多いようです。重要なことは「無意識に」行っているということです。
この時、歯が接触している力は、おでこの血管が浮き出るほどということはほとんどなく、多くは「歯が接触しているくらい」という表現がぴったりなくらい弱いことがわかっています。
この歯を接触させる習慣、癖は「TCH(Tooth Contacting Habit)」と呼ばれています。東京医科歯科大学の顎関節治療部で名付けられました。TCH(歯の接触癖)が顎関節症を悪化させる一因子であるということが、調査によってわかったことから注目され始めたようです。
TCHが与える悪影響
たかが歯が軽く接触するくらいの力で、とお感じになる方も多いとは思いますが、顎関節症のほか、どのような悪影響を及ぼすか挙げてみましょう。
・入れ歯の痛み
・ものを噛むときに感じる慢性的な痛み
・歯周病の助長
・つめもの、かぶせものが外れる
・歯や歯の根が割れる
・舌の痛み
・舌や頬の内側を噛んでしまう
多くの部分に悪影響を与えることがおわかりだと思います。特に歯の根が割れてしまうと、基本的にその歯の保存はできなくなりますから、抜く他に方法はなく、お口の中が急に大きく変わってしまう原因にもなります。
せっかく治療したかぶせものやつめものを長く使うためにも、延いては口の中の健康を長く保つためにも、おおげさな表現ではなく、むし歯予防、歯周病予防と同じくらい重要であると当院では考えています。
ここでTCHの理解にやくだつポイントをまとめますと
1 TCHとは上下の歯を1日17.5分以上接触させてしまう癖である
2 TCHは様々なかたちで口の中に悪影響を与えるものになりうる
3 強い咬合力より、弱くて長時間の咬合力が口の中に問題を引き起こす
4 TCHは無意識に行うため、自覚するのが難しい
となります。
当院での取り組み
当院ではまずTCHがあるかどうかの診査をし、TCHが疑われるかたにはTCHの説明、理解をしていただきます。そして日中、仕事場でも家でもできるTCHを緩和させるための方法の提案や、実践程度を確認しながらの指導を致します。
また夜間の噛み締め食いしばりに対してのマウスピースの作成を積極的に行っております。
参考文献
歯科医院で取り組むTCHコントロール入門
TCHのコントロールで治す顎関節症(第2版)