むし歯の予防について
口の中の悩みで、むし歯は特に皆様の関心が高いと思います。
鏡で黒くなっているところを見つけたり、急に歯にものがはさまるようになったり。つめたいもの甘いものがしみて痛い。
では治療するとなるとキーンと削るあれをやらなければと、いろいろと嫌なことが思い浮かびますね(当院ではなるべくつらい思いをしないよう工夫しています)。
なってしまったものについては、しっかりと治療することが大事です。具体的な治療についてはまた別のところでお話いたします。
痛みや不快感があるときには通うだけで精一杯、余裕が無いのが当たり前ですから、予防のことまではなかなか考えにくいものです。治療が一段落したらこれから再びむし歯にならないためにはどうしたらよいのか、我々と一緒に考えてみませんか。
むし歯というのは、ある特定の歯にできた穴と考えるよりも「歯にむし歯ができてしまう口の中の状態」と考えると、より予防を考えやすいと私はおもいます。
貴重な時間を割いて通院をして治療をしたとしても、口の中の環境がむし歯を作ってしまう状態であれば、またむし歯になってしまうのも不思議はない、ということになります。
では、わたしたちがむし歯予防のためにできることはなんでしょうか。「やる気になればできること」を基準に挙げてみたいと思います。
1 プラークコントロール(磨き残しを少なくする)
2 甘い物のとりかたを見直す
3 フッ素(フッ化物)を効果的に使う
4 むし歯になりやすい歯の溝を埋める
5 定期的な歯科の受診
年齢やそれぞれの方の背景を細かく考えればまだまだあると思いますが概ね上記のようになると思います。
1 プラークコントロール
一所懸命に磨いたつもりでも、ブラシがあたりにくい場所というのは存在します。磨き残しの細菌の塊(プラーク)が赤く染まってくる液で確認をし、自身の癖を知ること、また歯と歯の間などブラシの届かない部分にはデンタルフロス(糸を歯と歯の間に入れ込んで汚れを掻き出す)などが有効です。デンタルフロスの使い方は多少コツが入りますので興味があればどんどん我々にお尋ねください。
あわせてこちらもお読みください。
デンタルフロス 歯間ブラシ 糸ようじをどのタイミングで使うか
2 甘い物のとりかたを見直す
ここは介入するのが非常に難しいところです。わかってはいるんだけど、どうしてもというご意見を多くいただきます。私も好きな方なので、せっかくのお楽しみを見直してはいかがでしょうかというのは、辛いところです。
むし歯は主にミュータンス菌が原因の感染症です。
ミュータンス菌は、砂糖(スクロース)を代謝して、不溶性グルカンと歯を溶かす酸を作ります。不溶性グルカンとは、歯の表面にベタッと張り付くためのとりもちのようなものです。ベタッとくっついた上で酸をつくるので、イメージとしては歯面をしっかり溶かせるということになり、たちが悪いと言いますか、他の菌に比べて圧倒的にむし歯を作りやすいのです。
患者さんの生活習慣やどのようなときにどのようなものを食べるのか、よくお話を伺いながらこのようにしてはどうかと提案し、頑張ろうと思える範囲であれば実行していただきます。その後どの程度達成できたかを再評価します。
提案の例を挙げますと
・チョコレートやアメを食べつつ仕事をしていたのを、休み時間にまとめてもらう(頻度をすくなくする)
・部活中にスポーツドリンクで水分補給していたのを麦茶にかえてもらう
・おやつにお菓子をたくさんあげてしまっていたのをさつまいもにかえてもらう
などです(お菓子よりさつまいものほうがむし歯にならないというエビデンスはおそらくないと思いますが、砂糖そのものではなく食物繊維他栄養価を含み腹持ちが良いという意味で)。
患者さんと話し合いながら妥協点を見つけていくというようにやっています。
3 フッ素(フッ化物)を効果的に使う
フッ素(フッ化物)のむし歯予防効果についてはすでに科学的に実証されており、世界中の保健機関でも強く推奨されています。個人的には、ブラッシングや甘い物のとりかたを見直すことに比べて各人の努力に頼る部分が少なく、言ってみれば導入に伴う精神的なハードルが低いところもおすすめできる理由の一つと考えています。
フッ素(フッ化物)は年代別に使用方法が異なりますのでそこはまた別の機会にお話します。
基本的な考えは
・歯磨剤に含まれているフッ素(フッ化物)を「残す」ように使う。
(きれいさっぱりうがいしてしまうとフッ化物が全て流れてしまいます。年代別で歯磨剤に含まれているフッ化物濃度は変える必要があります)
・就寝前(寝ている間の口の中にフッ素(フッ化物)を残す。保護者の指示でくちゅくちゅうがいができる4歳以降です。)
・歯科医院での高濃度フッ化物の応用(歯質を強くする)
以上のとおりです。
4 むし歯になりやすい歯の溝を埋める(シーラント)
フッ素(フッ化物)の使用と同じく各人の努力に頼る部分が少なく、むし歯のリスクを減らすことができる方法として推奨されています。
鏡で見るとよくわかりますが奥歯には山と谷がありますよね。その谷の部分は食べ物が停滞したり、歯ブラシがかけにくかったりでむし歯になりやすい部分と言えます。そこをあらかじめ歯科材料で埋めてしまうことでリスクを低くするという方法です。「シーラント」という言葉を聞いたことがあるかたもいらっしゃるかもしれません。
歯の谷の部分に埋める材料にはフッ素を放出し、また口腔内にフッ素が取り込まれると材料内にもフッ素が補充されるという材料もあります。
谷というリスクのある部分を埋めて平坦にし、さらにフッ素の効果でむし歯を抑えるという二重の効果を期待します。
こどもの生えたての第一、第二大臼歯や、カリエスリスクの高い大人にも推奨される処置です。
5 定期的な歯科の受診
この項目は直接的にむし歯予防と結びつくかと言われると、そうではありません。
むし歯予防には、毎日の生活、行動(上で述べた項目1、2、3など)が直接強く関わります。
しかし誰もが通院時に提案されたことをその後忠実に長期間行えるかと言われるとそうではありません。私も生活習慣病予防の素晴らしい運動計画、食事制限目標を立てるときがありますが、忠実に長期間と言われると恥ずかしながら全く自信がありません。皆さまにも思い当たる部分はありませんか(ないのであればそれはとても良いことです)。
つまり予防のペースメーカーがあったほうがよいのです。
生活スタイルが変わるにつれて予防に使う道具や材料、使うタイミングも変える必要があるかもしれませんし、ブラシで以前は磨けていたところが磨けなくなってしまっていたり。知らないうちに、かぶせものや詰め物が外れかけていることや、むし歯になってしまっていることもあります。根の治療をした部分の経過もレントゲン診査が必要なことがほとんどです。
歯科医院にいくことで「また(あらためて)気をつけるか」と思うことも大事です。やる気の補充という効果もあるのではないでしょうか。私自身も運動のやる気が失せてきたときに、健康には適度な運動が良いということを目にするとやる気が再度湧いてきます。やる気のある時とない時、その繰り返しでもいいんじゃないかなと私は考えています。