「食べる楽しみ」を守るために。50歳から始める口腔機能低下症対策
50代から始まる、気づきにくい「お口の機能」の曲がり角
50代に入り、体力や視力など、身体の様々な変化を感じ始める方は多いのではないでしょうか。
実は「お口の機能」も例外ではありません。
「自分自身が食事中にむせやすくなった」「配偶者の食べるスピードが遅くなった」「滑舌が悪くなった気がする」といった、ご自身やご家族のささいな変化。これらは決して「気のせい」や「単なる加齢」で片付けるべきものではなく、「口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)」という疾患の初期サインである可能性が高いのです。
口腔機能低下症とは、虫歯や歯周病による歯の欠損だけでなく、口の周りの筋力低下や唾液の減少などが複合的に絡み合い、噛む・飲み込む・話すといった機能が総合的に低下していく状態を指します。
医学的データが示す「お口の衰え」と「全身の衰え」の連鎖
「少しむせるくらい、大したことはない」と放置することは、将来の全身の健康に対して大きなリスクを伴います。医学的な観点から、口腔機能の低下は以下のプロセスで全身の衰え(フレイル)を引き起こすことが分かっています。
噛む力の低下が招く「全身の筋力低下(サルコペニア)」
噛む力や飲み込む力が落ちると、無意識のうちに噛みやすい「柔らかいもの(麺類やパンなどの炭水化物)」に食事が偏ります。その結果、筋肉の材料となる肉や魚などの「たんぱく質」が不足し、全身の筋肉量が減少する悪循環に陥り、将来の要介護リスクを急激に高めます。
嚥下(えんげ)機能の低下と「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」
飲み込む力が衰えると、食べ物やだ液、そしてそれに含まれる細菌が誤って気道に入りやすくなります。日本の高齢者の死亡原因の上位を占める肺炎ですが、その大部分がこの誤嚥性肺炎によるものと報告されています。
ご自身とご家族で確認するセルフチェック
日常生活の中で、ご自身やご家族に以下の症状は当てはまりませんか? 自分では気づきにくいため、ご夫婦やご家族同士で客観的に確認し合うことが大切です。
・お茶や汁物など、水分でむせることがある
・お肉やたくあんなど、硬いものが噛み切れなくなった
・口の渇きが気になる(クッキーなどが飲み込みにくい)
・薬を飲み込むのに苦労するようになった
・滑舌が悪く、聞き返されることが増えた
・食べこぼしが増えた、または食事に時間がかかるようになった
一つでも当てはまる場合、すでに機能低下が始まっている可能性があります。
感覚ではなく「数値」で測る、7つの客観的検査
口腔機能低下症は、感覚的に診断するものではなく、専用の機器を用いて客観的な数値で評価します。当院では以下の7つの項目のうち、3つ以上が基準値を下回った場合に「口腔機能低下症」と診断し、管理・指導を行います。
口腔衛生状態の低下: 口腔内の細菌量などを測定し、清潔度を調べます。
口腔乾燥: 唾液の分泌量や粘膜の水分量を専用機器で測定します。
咬合力(こうごうりょく)の低下: 測定用のシートなどを噛み、しっかり噛みしめる力を数値化します。
舌口唇(ぜつこうしん)運動機能の低下: 「パ」「タ」「カ」の発音回数を機器で測定し、唇や舌の運動速度を評価します。
低舌圧(ていぜつあつ): 飲み込む際に重要な「舌の筋力」を舌圧測定器で測ります。
咀嚼(そしゃく)機能の低下: 検査用のグミなどを噛み、食べ物をすりつぶす能力を判定します。
嚥下(えんげ)機能の低下: 安全に飲み込めているかを、質問票等を用いて評価します。
※原則として、50歳以上の方であればこれらの検査および指導に健康保険が適用されます。
早めの気づきと検査で、機能は維持・回復できます
口腔機能低下症は、早く気づいて適切な対策をとれば、十分に機能の維持や回復が期待できる疾患です。日々の「健口体操」や唾液腺マッサージ、義歯の調整など、一人ひとりの検査結果に基づいたアプローチを行います。
「いつまでも美味しく食べ、楽しく会話する」ことは、豊かな人生の基盤です。50歳を過ぎたら、全身の健康診断と同じように、客観的な「お口の機能検査」を受けることをお勧めします。ご自身のこと、あるいはご家族のことで気になる症状があれば、ぜひ当院へご相談ください。
